生と死のミニャコンガ
最後まで一気に読ませる、すごい本だった。
1981年、中国、ミニヤコンガ峰登頂に挑んでいた著者一行を襲った滑落事故。8名の仲間達を一瞬に失い、自身もクレバスに落ち込んだり死とスレスレの体験をする。
「生き残った者」としての十字架を背負い、現れる仲間の幻影と向き合いながら、「生きることとは何か、死とは何か」という問いを繰り返す。そして、遺体収容の旅、遺族たちとの語らい、そして、過去を乗り越えて、著者は再び登山へと向かう。
生と死を分かつのは本当に薄っぺらい偶然であるが、それでも研ぎ澄まされた直感で危険を予知しうる野生動物のような能力を、人間は本当は持っているのかもしれない、と感じた。
壮絶な体験を乗り越えてきた著者のたどり着いた境地には到底凡人は到達できないが、科学では割り切れない人知を超えた何ものかの存在や、他人の魂に生き続ける限り、魂は存在し続ける、誰も他人の心の中に生きなくなったときに本当に魂の死が訪れるのだ、自分はできるだけ長く、他人の心の中に生き続けたい、という著者の心情に深く共感する。