信仰と医学〜聖地ルルドをめぐる省察〜 帚木蓬生著

ルルド。南仏、ピレネー山脈のふもとに位置する街。少女ベルナデットが来臨した聖母マリアに会った奇跡の町として有名なこの街に、大雨の中、私がたどり着いたのは10年くらいの5月だった。

最初は、ずらっとホテルが立ち並び、土産物屋がずらっと夜遅くまで蛍光灯をあかあかつけながら営業しているさまを見て、最初はげんなりしたものだった。が、2-3日滞在し、奇跡の起こったとされる泉の水を汲み、車いすやベットに横たわったまま沐浴する人たち、それを介護する人たちを見ていると何とも優しい気持ちになれた。

その思いは、夜のろうそく行列(聖母マリア像を先頭にロウソクを持った信者たちが教会内を行進するもの)を、アベ・マリアを口ずさみながら見物していた時に頂点に達した。

さてこの本。

ルルドで沐浴したら重い病気が治った、等の「奇跡」を、「ルルド医学検証所」の専門家が医学的に厳密に検証し、本当に医学的に説明のできない治癒かどうかを判定する取り組みが今も続いていることは驚きで、現役の精神科医でもある著者の解説が光っている。これまで70例の「医学的には説明できない治癒」として認定されているそうで、それらは膨大な申請件数の中で厳密に審査された結果だそうだ(さすがに、検証所の医師たちは科学者として「奇跡」という言葉は使わない)。

「科学」と「信仰」は、全く交わらないものではなく、ルルドはまさにその交差点上にあり、お互いを照らしあう存在であることに気づかせてくれた。

人間のやさしさに包まれる場所としてのルルド。10年前の訪問で実感したがまた行きたくなった。