生と死の境界線「最後の自由」を生きる 岩井寛/松岡正剛

思うところがあり、30年ぶりに再読。がんに侵され、余命宣告された精神科教授である岩井寛氏に対して、死に至るまでの間ずっとインタビューを継続し、思考と精神的な状況、教授を苛む肉体的な変化を追った書。伴走する松岡正剛氏もまた、実験的な取組みに立ち会いながら、死に直面する教授にどのように接すべきか悩みつつ、筆をつないでいく。

 「がんが脳を侵したら自分が自分でなくなるかもしれません」そんな状態になっても自分を記録してほしいという、学問に殉ずるような教授の信念と気迫には脱帽である。

「最後の自由」は、岩井教授の信念であり本書を貫くメッセージ。肉体的にどんなに過酷な状況にあっても人間の内面は自由であり、納得できる生き方を追求する自由は残されているのだ。特定の宗教観を持たない教授は、人間は死ぬと「空無の世界」に行くという。それが何なのかはよくわからないし、最期までわかるものではないと思うが、最期まで精神の自由を持ち続けることができる、というメッセージは大いに救いになると感じた。

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