私の大好きな中原中也の「夏の日の歌」。(詩集「山羊の歌」より)



青い空は動かない、
雲片れ一つあるでない
  夏の真昼の静かには
  タールの光も清くなる


夏の空には何かがある
いぢらしく思はせる何かがある
  焦げて図太い向日葵が
  田舎の駅には咲いてゐる


上手に子どもを育てゆく
母親に似て汽車の汽笛は鳴る
  山の近くを走る時


山の近くを走りながら
母親に似て汽車の汽笛は鳴る
  夏の真昼の暑い時


夏は私の大好きな季節だ。
50歳を超えた今でも、むくむくと湧いている猛々しい入道雲を見ると、心が躍る。
同時に、胸が締め付けられる。
昔の夏を思い出す。
時間を超えてしまう。自分が生まれる前の夏を思い出さんばかりの勢いだ。
あと何回、こんな夏を迎えられるのか、と思うと、いてもたってもいられなくなる。


中也は1937年2月、鎌倉の寿福寺境内に転居、10月に今の清川病院で死去した。享年30歳。
写真は寿福寺前の今日の横須賀線
中也もこの風景を見ていたのだろうか。
母親が子供を励ますような、汽車の汽笛を聞きながら。