生存する意識~植物状態の患者と対話する~ エイドリアン・オーエン

いわゆる植物人間となった人の意識状態を探るプロジェクト。fMRIなど脳科学に用いる技術の発展は、まずはYES、NOの応答を患者から引き出すことに成功した。何割かの植物状態の患者は、患者に向けて発せられたメッセージが「聞こえている」だけでなく、「理解している」ことがわかったのだ! 患者からすると「スキャンが私を見つけてくれた」のだが、良いことばかりではない。これを患者家族に告げることの意味、そして、研究プロジェクトの終わりが、当該患者にとつては、「無人島に漂着した遭難者に気づきながらそのまま通過していく船」となり、かえって絶望を深くさせるのではないか、と思い悩む。

高校生の頃に、和歌山県田辺市の病院で、植物人間になった妻の病床に30年間ずっと寄り添い、妻より先に夫が亡くなったという新聞記事を読んで、まさに英雄は人知れず市井の人の中にひっそりと存在しているのだと感動したことを思い出す。もしその妻が、このように意識があったのであれば、その30年間は不幸な中でもかけがえのない時間だったのではないか、と一筋の救いを感じる。このような研究の一層の発展を願ってやまない。

生存する意識 | みすず書房 (msz.co.jp)