ウィーンからクロアチアへ
モスクワのシェレメチボ空港を早朝に旅立ち、アエロフロート便でウィーンへ。
ホテルにチェックインしてすぐに、ウィーン美術史美術館に向かう。
ブリューゲルの「バベルの塔」、「ベツレヘムの嬰児殺し」
初めて見るナマのフェルメール「絵画芸術」など。
見たかった名画の数々に対面して至福の時間を過ごす。
その後は、路面電車でグリンツィングへ行き、ベートーベンの家、ベートーベンが作曲の構想をしつつ歩いたと言われる「ベートーベンの散歩道」を散策。
夜は楽友協会で、モーツァルト、ヨハンシュトラウスのコンサート、と半日だけのウィーンを堪能した。
翌朝、ウィーンのシュテファン広場の脇にあるホテルからタクシーに乗り、空港に向かう。目指すはクロアチア・ドブロブニク。
「どこまで行くんですか」
まだ20代前半と言った感じの若い運転手がのんびり聞いてきたので、私も、
「スカイヨーロッパでドブロブニクに行くんです」
と半分、独り言のような感じでつぶやいた。
が、この言葉で車内の空気が一変した。
「スカイヨーロッパ便ですって?」
運転手は大声で聞き返し、ややあって低い声で言った。
「スカイヨーロッパ便は飛びませんよ」
「どうして?」
「ウィーンの空港使用料を滞納して、ウィーン空港から締め出されたそうです」
「えっ、いつから?」
「今朝の新聞にそう書いてました。多分、隣国スロバキアのブラチスラバ空港からは飛ぶ筈です。ウィーンの空港でまずカウンターに行きましょう。大丈夫です。いざとなったら私のタクシーでブラチスラバにお送りしまよ」
運転手はそう言ってアクセルを踏み込んだ。あっと言う間に数台の車がバックミラーの中に消えていった。
私にとっては大変な事態だが、100キロ近い長距離を走れるかも知れない客をつかまえた運転手は大張りきりである。
空港でこの航空会社のカウンターに駆け込むと、ブラチスラバからドブロブニクまで飛ばすことにしたので、チャーターしたバスでまずはブラチスラバまで行け、とのこと。
運転手は良かったね、グッドラック、と言って握手し去ろうとしたので、慌ててタクシー代を払った。運転手は「忘れてたよ」と頭を掻いて笑った。実に気持のよいオーストリア青年。
さて、バスに乗り込もうとすると、すでにバスの荷物室は大きなトランクで一杯になっている。何とかトランクを押し込み、バスにのり、家族3人バラバラに座った。
こうして、図らずもスロバキアの地を踏むことになった。
ブラチスラバからの飛行機は遅れに遅れ、予定より5時間遅れてやっとドブロブニクに。
それでも、機長は、「お急ぎの皆さんのために近道しましたので、いつもより15分早く着きました」とアナウンスでのたまい、「帰りはちゃんと飛ぶのか」という私の質問にスチュワーデスは、あさっての方向を向いて「ホームページをチェックしといて」とうそぶいた。
やれやれ。
ホテルにチェックインし、路線バスで旧市街に繰り出した。
ライトアップされているレストランの前にそびえる大きな砦を見ながら、ともかく念願のドブロブニクに来た感激をかみしめた。