ロシアの先生たちとの東京の夜

10月中旬、ロシアの先生たちを引率して10日ほど日本に滞在した。

私が引率したロシア人の先生方。ほぼ全員が教授かつ研究所長、伝統と権威の殿堂、ロシア科学アカデミー会員が半数というすごい先生たちだった。

すべての公式日程が終わった東京の夜、半分の先生方は秋葉原に消えた。
残った先生方を私が夜の観光のおともに。

お台場でのシーサイドオーキング、浅草での旧市街散歩、東京タワーの三つの選択肢を与えたところ、全員一致で東京タワーに行くことに。

まあ、これはなんということもなく終了。ただ、東京タワーの営業終了が気になり、夕食を後回しにして観光に出かけたので、観光が終わって東京駅に戻った時には全員空腹でどうしようもなかった。

閉店寸前の八重洲地下街ではあえなく入店を断られ、八重洲の地上にあがると、地下とは別世界のように、「まだまだ商売!」という熱気が立ち上っている。今度は6人が一度にはいれる店がなかなか見つからない。

そんな中、閑古鳥が鳴いて暇そうな日本料理屋を見つけて入り、掘りごたつ式の座敷に腰掛けて先生方はご満悦。早速、スシ、サケ、テンプラとオーダー目白押しで私と店の女将は目が回るような忙しさになった。

来た来た、お待ちかねの寿司。先生方、端から順番に寿司の乗った大皿を回し、お好みの寿司を自分の小皿に乗せてかぶりつく。

A先生はハマチ、B先生はヒラメ、と眺めていると、なんと遺伝学の権威のC先生、「俺はこの寿司が好きなんだよ」てな感じで箸でガリの塊をわしづかみにすると、自分の皿の載せるのももどかしく全部口の中に入れてしまった。C先生、それは寿司じゃないんですが・・・・

そう思うと、海洋生物学の権威のD先生、寿司のネタを指さしながら、これは安全、これは危険、これはどうかな・・・と同僚の先生相手に講釈中。先生、全部、大丈夫ですって。見ていると、D先生に「これは危険」と言われたおかげて誰も箸をつけなかった寿司を、地震学の権威のE先生が、「俺はロシアンルーレットには強いんだ。ロシア人だからな」とわけのわからないジョークを飛ばし、その寿司をつかんだ。

あっ、E先生、貴方が寿司を浸しているのはしょうゆではなく、テンプラのつゆですよ。そんなものに浸したら台無しですよ。

E先生が寿司を口にして、むしゃむしゃ、とたんに「ホォー、ホォー」と素っ頓狂な声を上げる。「毒にあたったか?」「熱かったのか?(寿司が熱いわけないでしょうが!)」と身を乗り出す他の先生方。大丈夫。ワサビがきつかっただけなんです。

とにかく、どんちゃん騒ぎで最後には板前さんとハグハグして上機嫌で店を後にした先生方。いい日本の思い出になったかも。

そんな私は、帰りの電車の中で、思い出し笑いをかみ殺すのに一苦労だった。