風の村「ダム」
ブリュージュ郊外のダムという町を訪ねた。
昔はブリュージュの入り口として盛隆を誇った街というが、全くその面影は残っていない、しずかな町だった。
ブリュージュ中心の広場からバスに揺られること30分。若い女性運転手は、終点ですよ、と声をかけた。
降りた瞬間、冷たい風が吹き抜けた。
当てもなく歩き始める。通りの両側にはレストランやみやげ物屋、木賃宿っぽいホテルだが人通りはほとんどない。
まずは聖母教会だ。
大きな教会だが、教会の入口のドアは固く閉じられている。別棟の建物は一部崩れかけている。無人なのか。
川に沿って並木があり、その小道を歩き始めた。午後3時近く。もともと高く上がっていなかった北国の太陽は、早くも眠りに着く準備を始めたようだ。
遠くで大きな風車が回っている。
低い太陽の陽射しが並木に当たり、長い影を作っている。
遠ざかっていく朽ちかけた教会。
聞こえるのは風がそよぐ音と、木々がこすれる音のみ。
この景色は何と表現すればいいのか。
なんとなく既視感(デジャブ)に襲われるが思い出せない。良く考えてみれば、ドラマや映画で、夢の回想シーンなどに使えば最適な風景である。どこかの映画でこんなシーンをみたような気がする。あるいは、どこかの風景画かもしれない。
運河沿いに、はるか彼方まで延々と並木が続いている。
ずっとぼんやり見ていたい気分だが、あいにくブリュージュに戻る次のバスを逃すと2時間バスがない。しかもその18時のブリュージュ行きが終バスだ。
バスの窓からずっと景色を眺めていた。
どこか懐かしい、この風景。
風と、木々と運河、そして低い太陽。