地下鉄自爆テロ事件

今朝は夏時間移行直後なので眠かった。午前7時に目覚ましが鳴ったが一昨日まで午前6時だった時間。外もまだ暗い。

何とか起きだして仕事に向かう。いつもの地下鉄駅に。

歩きだして5分ほどしたころ、携帯を家に忘れたことを思い出した。
いつもなら、いいや、面倒くさい、となるところだが、今日は何故か携帯が必要な気がして、取りに戻ろうと思った。

結果的にその予感は正しかった。

5分かけてアパートに戻ると、管理人のおばさんは「忘れ物ね」と苦笑い。「ブッチェズダロービエ」(気をつけてね)というおばさんの言葉を背に、また外に飛び出した。

と、その途端、取ってきたばかりの携帯が鳴った。日本の妻からだ。

「大丈夫なの?」いかにも息せきこんで、という感じで唐突に聞かれた。

「何が?」

「モスクワの地下鉄でテロがあったわよ、ご主人大丈夫なの、ってお友達から電話があったわ」

「そうか。分かったよ」

詳しいことは分からない、という。

だとすると地下鉄駅に行くわけにはいかない、と考えた私はバス停に向かった。バスに乗って路線図を見ながら、地下鉄に乗らずに、バスだけ乗りついで会社に行く方法を考えた。

道路は大渋滞していて、バスと路面電車を乗り継いで職場に行くのに1時間以上要した。

職場でニュースを見て振り返ってみると、私が最初向かっていた地下鉄駅は爆発のあった駅の2つ先。携帯を取りに戻らずまっすぐに駅に向かっていたら、テロがあった時間帯と同じ時刻にすぐ近くの地下鉄に乗っていたことになる。テロがあった路線ではないので、被害に遭遇していた可能性はないが、駅での大混乱に巻き込まれたり、スシ詰め電車の中に閉じ込められた可能性が大いにある。

大急ぎで職員の安否確認をする。片端から携帯にかけて、安否を確認。そういえば、15年前、東京の地下鉄サリン事件の時は、オフィスの外でサイレンが鳴り響く中、同じことをした。

正午ごろまでには全員の無事を確認したが、テロにあった線で通勤していた職員の1人は怖いから今日は出勤したくない、といってきた。気持ちはよくわかる。サリン事件の時もそうだった。

一様にロシア人職員の表情は暗い。

「こんなことはもう起きないと思っていたのですが」。総務のサーシャは言う。「いいですね。モスクワから逃げられる人は」

ロシア人という人たちは、深く自分の国を愛している一方、同時に、深く深く自分の国を憎んでいるのだな、と感じる時がある。

この国の歴史が、そんなアンビバレントな感情を育んでいるのだ。

この国の社会に横たわる絶望的な深い深い闇、それを垣間見た時、この国に生きていくということは実は大変なのだ、と改めて気付いた。