ノブゴロドへ

モスクワ・レニングラード駅を定刻の21時50分に発車した、のだろう、ノブゴロド行き42列車だ。

4人コンパートメントの下の席。上の席は若い女性。向かいの2段は中年夫婦だった。

同室に女性がいる場合は着替えのためにいったん部屋を出るのが礼儀、なのだが、向かいの中年夫婦はずっと話しこんでいて男性は出る気配もなく、私も1週間の疲れがどっとでて、ベットにうつ伏せになったままでいた。

気がつくと列車は走り出していて、室内も消灯されている。

実はこのチケットを手に入れる時、ハプニングがあった。
ノブゴロドまで2等寝台1枚、街の中の鉄道カッサでそう告げてチケットを買ったところ、手にした切符に書かれたロシア語の行先は

「ゴーリキイ」

となっている。待てよ、これは、ニジニノブゴロドじゃないか。方向が全然違う。発車する駅もよく見るとシベリア鉄道と同じヤロスラブリ駅。

抗議すると、「ベリーキーノブゴロドと言え」と、おばさん。それが現在のノブゴロドの正式名称らしい。いわば、「偉大なノブゴロド」という意味だが、ノブゴロドも2か所あるのでそう言って区別するようにしたのだろう。あやうく全く違う場所に連れて行かれるところだった。

そんなことを思い出しながら車窓をぼんやり眺めていた。

私は実は眼鏡をかけていても相当視力が悪いのだが、それでも車窓からは真っ暗な大地の上空に、降るような星の光が注いでいるのが見える。

読書灯を点けてしばし読書。初めてのチェーホフ

ロシアの旅の友はロシア文学に限る。特に夜行での読書はいい。

「中二階の家」という、ロシアの田園地帯を舞台として、画家が知人の妹に恋し、別れるという何ということはない短編だったが、外で輝いている星のように、なぜか心に染みてきた。