山中湖畔で

定宿にしている山中湖のペンションに1人で出かけた。またしても妻子のブーイングを振り切って。

よく晴れた、星が綺麗な夜だったので、宿泊者で庭に出て、望遠鏡で星を眺めた。

この年になって、どの星が「ひこぼし」と「織姫」なのか、初めて教えてもらった。

なるほど、天の川をはさんで、こうして向かい合っていたのか。

そして、きらきら光る木星

肉眼では見えないが、望遠鏡でのぞくと、木星の右隣に、針で突いたように小さな星が並んでいた。これが、その昔、ガリレオガリレイが手製の望遠鏡で発見したという、木星の衛星たちらしい。

年甲斐もなく興奮している私たちにオーナーが問いかけた。

「なぜ星が見えるかわかりますか。」

「何百年もかけて旅してきた星の光の粒子が、今あなたの目の中に届いているからですよ。つまり、数ミリのあなたの目の中に、今見えている宇宙の全てがある、ということです」


ペンションのロビーに戻り、オーナーがサハラ砂漠を旅した時の話を聞く。砂漠の民、トゥアレグは、昼間なのに、井戸に映った星を見て位置を知るという。

その後は20年前、ローマで行われた三大テノールの公演のビデオを見る。白血病からの生還を果たしたカレーラスの快気祝いのために企画されたというが、ドミンゴ、そして今は亡きパバロッティの熱唱を聞いていると時間を忘れた。

そのまま、静まり返ったロビーで、12時近くまで読書した。

黒川浩「はるかな星をめざして」と、訳書の「アンドレイ・リュブロフ」。

前者は、ピアニストである筆者が芸術論に焦点をあてて書いているが、これは立派な人生論だ。私の大好きなビィクトル・フランクルの「夜と霧」を取りあげているのもいい。全部読めなかったので帰宅してから購入してじっくり読もう。

後者は、15世紀、動乱の時代に生きたイコン画家、「アンドレイ・リュブロフ」のことを書いた本だが、筆者のイコンの研究に対する並々ならぬ情熱が伝わってくる。タルコフスキーの映画「アンドレイ・リュブロフ」を是非見たい、と思う。

私はイコン自体にはそれほど関心はないのだが、それでもモスクワ・トレチャコフ美術館のリュブロフ作とされる「ウラジーミルの聖母」を見るたび、背中がぞくぞくするのを感じたものだ。


それにしても、このペンションのロビーで、数百冊の本、数百枚のレコードに囲まれて読書したり、泊まり合わせた人たちとソファーで会話するのは本当に楽しい。禁断症状が出るので、こうして1年に一度は訪れている。

今度はいつ来ることになるのだろうか。