埼玉県立近代美術館でモダニズムにひたる
前から行きたいと思っていた、植田正治写真展「写真とボク」。最終期日の23日が迫ってきたので、思い切って早起きして鎌倉から北浦和の埼玉県立近代美術館に行ってきた。
植田は、どちらかというと私が苦手な現代美術に雰囲気は似ているのだが、何故か心にピッタリくる。終生「アマチュア」にこだわり、鳥取で写真館を営みながら、鳥取砂丘を舞台に家族や村の子どもたちを被写体にユニークな写真を撮り続け、そのスタイルは「Ueda-cho(植田調)」として世界に知られる写真家である。
一番良かったのは、この「ハパとママとコドモたち」。小さい画面ではわからないのだが、美術館の大きな壁面から溢れだす、ノスタルジー、「家族」というもののすばらしさ、愛情・・・いろいろなものがピンピン伝わってくる。子どもたちには、自分が一番好きなものを持って集まれ、と言ったらしい。結果、
悪童ぶりがたっぷりの自転車に乗った長男、
水仙の花を持つ長女、
ちょっと猫背気味にピストルを構える次男、
そしてちょこちょこ動き回る末っ子(実際、撮影は彼をじっとさせるのが一番大変だったとか)
それぞれが愛らしい。
それから、すばらしいのは雲。どの写真にもいろいろな形の雲がぽっかり浮かんでいる。
モノクロの雲がこんなに美しいとは。地平線の上に浮かぶ雲に「永遠」を感じる。
「自然に」という点にこだわった他の写真家と違い、「写真する」という彼の言葉が示すように、彼は「演出」にこだわった。この家族写真を見ていると、家族全員でこの作品を作り上げた、というのが伝わってきて、実に楽しく、ほのぼのした気分になる。私の知る限り、植田氏本人と紀枝夫人、そして次男の充氏(ピストルの子ども)の3人は既にこの世にないのだが、60年前に撮られたとは思えない新鮮さを感じる。
もう一枚の「コンポジション」は1937年の作。これも70年以上前の作品とは思えない、新しさを感じるではないか。
美術館というのはいい。すばらしい作品に会えると、本当に時間を忘れるから。