仙台駅から20分で

仙台駅からほど近いホテルに息子と投宿した。セミダブルで7000円という格安ホテルだったが、さすがに中学生の息子と寝るのは無理があった。

仙台駅周辺は、大震災があった痕跡は全くと言ってよいほどない。ちょうど夏まつりで、大勢の浴衣姿の若者が街に繰り出し、牛タンの店では長い行列ができていた。

翌朝は5時に起床。テレビでなでしこジャパンと米国戦に見入っている息子を連れ出して、タクシーを拾った。既に陽が昇り、随分明るい。もっと早くても良かったかもしれない、と少し後悔した。被災地を見て回るなら、できるだけ現地の方に迷惑がかからないようにしたい、そのためには早朝に、と思っていたのだが。

タクシーは一路海岸を目指す。

変わっていく景色に驚く。

繁華な仙台駅を出て20分ほどで、私たちはほとんどの住宅が基礎だけになってしまった荒浜地区に立っていた。

洗いざらい流された住宅の中に、ぽつんぽつんと残った家が建っている。それでも、1階部分は見事に流されてしまった家が多い。そして、あちこちに残る車、船の残骸。電車や貨車まで放置されている。

名取市閖上(ゆりあげ)では防潮堤が破壊された海岸を歩いた。
ここは津波の翌日、数百の遺体が発見された場所。ところどころにたむけられた多くの花束がそれを物語る。

バスの残骸。運行中だったのだろうか。乗客は逃げおおせたのだろうか。

海岸沿いを歩きながら、ここを数十メートルの高さの津波が襲ったのだ、と考え、イメージしてみた。

背筋が寒くなる。

一面のコンクリートの基礎だけになった原っぱを歩く。

廃墟のような門柱にかろうじて残った表札が、ここがかつて人間の営みのあった場所であったことを伝えるのみだ。

写真上 基礎だけになった住宅街に残った家屋
中央  破壊されたガソリンスタンド。津波はこの高さを越えたのだろう
下   バス。乗客は無事だったのだろうか