何と切ないバイオリンの音色なのか
終電で帰宅すると、注文していた渡辺茂夫のCDが届いていた。
渡辺茂夫は幻のバイオリニストとも呼ばれる。
幼くして才能を認められた彼は1955年、14歳で米国のジュリアード音楽院に留学。ハイフェッツ、バーンスタインといった音楽家から激賞されたが精神的に不安定になり16歳で服毒。日本に帰国してそのまま叔父であり師である渡辺季彦氏の介護のもと、回復せず2度とバイオリンをとることなく58歳まで生きた。
先日、季彦氏が103歳で亡くなった新聞の死亡記事を読んで私はこの神童バイオリニストを知り、CDを取り寄せたのだった。
夜食を食べながらCDを聞く。
ところが曲が進むにつれて、特に4曲目のアヴェ・マリアが始まった時は、とても食べながら聞く気分ではなくなった。
6曲目のツィゴイネルワイゼン、13曲目のショパンのノクターンと曲が進むにつれて、出るのはため息ばかり。
何と切ない音色なのか。まるで自分の人生を予見していたかのような。
全くバイオリンは素人の私、どちらかと言うとバイオリンが苦手な私だが、こんな心を揺さぶるバイオリンは初めてだ。
これは技術の問題ではない、何というか、才能?それとも魂?
海千山千の共演オケの男たち、女たちが、演奏中、彼のバイオリンの音色に涙を流したと言う逸話もうなずける。