9月29日〜10月5日 小樽から始まった1週間

日曜日は朝から少し華やいだ気分になる、はずだった。

なかなか予約が取れない、小樽の丘の上の1日1組限定、お屋敷の離れを利用したコッテージを予約していたのだ。

にもかかわらず、仕事が押し寄せてきた。

キャンセル代を全額払ってでも当日キャンセルにしようかどうか、悩んだが、行くことにした。

カバンに書類とパソコンを詰め込んでとにかく宿へ。

眺めよし、ロケーションよし、申し分ないだけにこの部屋で仕事かい、と泣きたい気分になるが仕方ない。

パソコンでバンバンメールを飛ばし、携帯であれこれネゴしながらとにかく真夜中に終える。

汽笛がして顔を顔を上げると、舞鶴行きの大型フェリーが岸壁を離れて港を出て行く。

船の灯りが流れ星のようだ。

あーあ、何をやってるんだか、と思わずつぶやく。

絶対仕切り直してやる。




翌朝は6時に起きて三角市場で朝食、7時のバスで札幌に戻り、そのまま出勤した。

あわただしく過ぎた1週間、今日、3ヵ月抱え続けていた原稿を朝から集中して書き、遂に脱稿した。

やれやれ。

解放感から、夕食を食べに行き、そのまま映画館のレイトショーに直行した。

観たのは「そして父になる」。自分の子どもを取り違えられたことが6年後にわかった2組の夫妻の苦悩。

どうすべきか。血を優先して交換すべきか、情を優先して、なかったことにするか。

大好きなバッハのゴルトベルク変奏曲のアリアがクライマックスで使われていて、そのたびにぐっときてしまう。

福山雅治演じる休日返上のモーレツサラリーマンが自分に重なる。

彼は、リリーフランキー演じる相手の父親に言う。
「子どもへの愛情を示すのは時間じゃない」

「時間だよ」とフランキー。

果たして、自分はどうだったか、と思ってしまう。

息子は小さいときから「お父さん、お父さん」と私を追っかけてきた。

毎日午前様、家は疲れて寝るだけの生活だった私は、十分息子と遊んであげられたのか。

2度と戻って来ない、かけがえのない父としての時間を本当に彼と共有できたのか。

気がつけば息子は私のことを「親父」と呼ぶ年になっていた。