イコノグラフを読む

若くして逝ってしまう女生徒、倉島真希、真希の友人の川村光音、羽根恍希、そして彼らの学校の教師である筒井舞衣が織り成す物語。愛と死、親子愛、様々な愛の形が、天文時計、鍵、ワタリガラス、ロザリオ、靴、サロメの劇、フォトフレーム等々、多くの印象深いアイテムとともに縦横無尽に語られる。読者は何重にも入り組んだ伏線の迷路をたどることになる。謎解きの方位磁石として与えられた数々の聖書の言葉を頼りに。舞衣はじめ、登場人物は何かしら、闇を抱えたり、迷路の中で道を失いかけたりしていて、彼らと一緒に旅することになる。読者は読むたびに新しい驚きや発見を見つけるだろう。

私が出会った最も気にかかった言葉は、シモーヌ・ベイユの「神は私たちのところに来ようとして、世界の厚みを超えてくる・・・・」。私にとって、この言葉の謎解きはこれからだ。

物語は光音、恍希、教師の舞衣を中心に進んでゆくが、私にとって、舞衣と夫の時田の関係が最も印象に残った。愛がなさそうな関係に見えた二人が、新しい局面を迎えて今後どのように時を紡いでゆくのだろうか。

この物語を読んでいる間、通奏低音のように、私の耳にはバッハの音楽が聞こえていた。ある時はマタイ受難曲、ある時はG線上のアリア、ある場面ではゴルトベルク変奏曲。心地よい音楽と意味深な哲学や聖書の言葉を噛みしめながら、何年かして改めて主人公たちの愛と生の物語に浸ってみたいと思う。きっと違った世界が見えると思うから。

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