自然は過酷だ

4月に訪問した山梨県の山奥の自然観察園。
ビジターセンターでは、センター近くにかけた巣箱でのシジュウカラのつがいの生活が小屋の中に仕掛けたビデオカメラを通じて観察できるようになっていた。

巣の中にはいくつかの卵があり、出入りするつがいのシジュウカラの様子が見て取れた。もうすぐ産んだ卵を抱く抱卵期間に入るとのことで、卵がかえり、親鳥たちがかいがいしく世話をする、そんな日が来るのだろうと微笑ましく思っていた。

2か月後の先週末、観察園を再訪した私がシジュウカラ親子のその後について聞いたところ、ネイチャーガイドで研究者でもある若い男性職員は「残念なことが起こってしまいました」と、ビデオの録画を見せてくれた。

8個の卵。

1つが割れかけて動いていた。間もなくひながかえるのだろう。親鳥も卵をコツコツ叩いていた。ヒナが生れやすくするためだが、親が叩くタイミグが早すぎるとヒナの命が危ない。絶妙のタイミングでの共同作業を意味する、禅宗の「啐啄同時」だ。初めて見た。

次々に孵るヒナ。親鳥が返ってくると大口を開けて餌をねだるヒナたち。親鳥はできるだけ平等に、呑み込めない弱い子には親が餌をちょうどよい大きさに切ってやったりして本当に甲斐甲斐しく世話を焼いている。

ビデオ早回し。

大きくなっていくヒナたち。

あと数日後に巣立ち、という平和な巣箱に、惨劇が襲った。
親のいない夜間、青大将が侵入したのだ。
画面は蛇の巨体だけ、ヒナたちはその体の下で窒息しそうだ。こうやって弱らせて食べるのだという。

と、別のもっと大きな蛇が現れた。蛇同士の決戦。敗れた最初の蛇は巣箱から追い出され、大きな蛇の独壇場になった。
外から追い出された蛇が未練たっぷりにちょっかいをかけてくるが、大勢は決した。

あまりのショッキングな映像と結末に呆然としていると、職員は、「本当に残念です。もう少しで巣立ちだったのに。ちょうどこの日は休園日で、我々も気づきませんでした」。と言った。

「もし、目の前で見ていたら助けましたか?」と聞いてみた。

「助けなかったでしょうね。これも自然です。」

しばらく沈黙したあと、ややあって彼は言った。

「この時期は蛇も繁殖の時期なんです。こうやってたくさん食べないと生き残れない。蛇も、天敵に狙われて食べられる運命にあるんです」

かわいいと言って鳥だけに情けをかけるのは人間の思い上がりなのだ。

食うか、食われるか。

自然は本当に厳しい。