オーストラリアの街角で

20年前の3月、南半球の秋の真っ只中、私はオーストラリア、パースの街角にいた。

1ヶ月にわたる、小さなリュックひとつ、着替えはTシャツ一枚という貧乏卒業旅行の終わり。シドニーからアデレードエアーズロックダーウィン、そしてパースとすべて長距離バスでまわり、宿ももっぱらバスだった。

満室だったユースホステルに頼み込んで、一晩2ドルでマットレスと毛布だけもらって、廊下に1週間ほど寝泊りしているうちに、いろいろ友人ができた。

彼らと連れ立って、昼、芝生の美しい海に面した公園で語らい、夜は街に繰り出した。折りしも、今日からフェスティバルだった。

街のそこかしこの広場で、バンドが演奏され、人々が楽しそうに踊っている。

ロックバンドの前では若者達が楽しそうにディスコダンスに興じていた。遠巻きにしてそれを眺めつつ、街を歩いていると、次のコーナーでは、カントリーのバンドが演奏されていて、大勢の老人たちが楽しそうに踊っていた。

曲が小休止し、ボーカルの男性が「Do you go home?」と聞くと、老人達から「No!」との大合唱。するとまた大ボリュームでの演奏が始まった。踊りの輪が盛り上がる。ひとりの老人が老婦人に踊ろう、と声を掛けている。老婦人は自分の指輪を指差しながら「駄目よ」という風に断ると老人は別のパートナーを探しに踊りの輪の中に消えていった。老人達は、実に楽しそうに、生き生きとして踊っている。わが祖国、ニッポンの老人達とかなり違う気がした。

「人生を楽しまなきゃ!」誰かが私の耳元でささやいた気がした。気がつくと、私もその踊りの輪の中に飛び込んで老人達と踊っていた。夜が更けるまで、そうやって踊っていた。

あと一週間後にはスーツにネクタイ姿で、東京の満員電車に揺られることになる、そんな夜の出来事だった。