犬が好き

残業を終えてオフィスを出るときに、まだ居残っている同僚達を激励(邪魔?)して帰るのが好きである。

今日もそうして帰ろうとコートを着たままオフィスをぶらぶらしていると、ある女性管理職の机に、映画の「犬と私の10の約束」のカードが張られてあるのを見つけた。

なぜか目に留まり、「10の約束」を何気なく読んでしまった。


第2 私を信じてください。それだけで私は幸せです。

(ふむふむ。それで)

第5 私にたくさん話しかけてください。人の言葉は話せないけどわかっています。

(・・・・)

第8 私は十年くらいしか生きられません。だからできるだけ私と一緒にいてください。
第9 あなたには学校もあるし友達もいます。でも私にはあなたしかいません。

(やばいなあ・・)

第10 私が死ぬとき、お願いです。そばにいてください。どうか覚えていてください。私がずっとあなたを愛していたことを。

もう耐えられない。
オフィスにいることも忘れて、ぐっときてしまった。

思えば小さい頃から、大阪の実家で、鍵っ子だった私にとって犬は心の友だった。

里山を毎日、犬と走りながら、いろいろなことを考えた。

私が小学校六年生の時に亡くなった「チロ」は、庭で飼われていて、決して座敷にあがってくることはなかったが、死の前日の朝、目が覚めると私の布団の横に寝ていた。チロも自分の寿命を悟り、少しでも私と一緒にいたい、と思ったのだな、と思うと今でも心が痛む。毎日一緒に走った山にチロを埋葬したとき、「目を覚ませよ!」と強く念じたことを思い出す。(その山も今は宅地造成されてお墓も無くなってしまった)

二代目の「チロ」。私が中学生になって、高校を卒業して実家を出るまでともに過ごした。思春期の真っ只中、悲しい時も嬉しい時も、犬を話し相手に過ごしてきた。親への反抗、進路の悩み。泣きたい位つらい事があった日も、チロがいつもそばに居て、私の独白を澄んだ目で聞いていた。

オフィスの中なのに、20年以上も前に過ぎ去った犬との日々が私にどっと押し寄せてきた。

「どうしたんですか。」と管理職。
「花粉症です。」と私。

「この映画いいですよ。是非見に行ってくださいね。」

そうだろうな。

でも映画の宣伝カードを見ただけでこんなになってしまった私としてはとても見に行けそうにない。