突然の晴れ間

22年前、大学3年の春休み。

ちょうど春分の日

京都からふらっと列車に乗り、旅に出た。

まず天橋立へ。東京から来たという若い女性と一緒に砂州を歩く。傘松公園から「股のぞき」で天橋立を鑑賞。夕方、駅で手を振って「じゃあ、またどこかで会いましょう」と別れた。旅先ではよくある出会いと別れ。

少し残念な気持ちを引きずりながら、こちらも列車に乗った。兵庫県の北、浜坂へ。降りしきる雪の日だった。そこで一泊。翌日は鳥取砂丘へ。美しい風紋の砂丘で、しばし昼寝した。その夜は出雲大社まで足を延ばす。

翌日、スイッチバック木次線というローカル線に乗り継ぎ、一気に広島の三次へ。朝霧の美しい、静かな良い町だった。ユースホステルに泊まり、宿泊者の残した思い出ノートを見ていると、天橋立で出会った彼女の名前が。少し心が騒いだ。

翌朝、再び鉄道で日本海に出る。そのまま山口県北の長門市へ。

ユースホステルに泊まったら、その日の客は私だけ。旅先の触れ合いを期待してユースに泊まったのに、少しさびしい夜だった。

翌朝は周辺の景勝地めぐり。春なのに、あいにく朝から小雪、時に吹雪く。バスを降りると、どこからか子犬が出てきて、案内するように私を遊歩道に誘った。子犬はじゃれついたりすることなく、私の少し先を歩いて行く。子犬の案内するまま、奥へ奥へと進んでいった。

美しい日本海の景色のはずだが、あいにくの雪模様。私が立ち止まると少し前で子犬も立ち止まり、振り向いてせかすように首を傾げてこっちを見つめる。子犬がずんずん進んでいくので、周りの景色を眺める余裕もなく、とにかく子犬を追っかけ、半ば走るように進む。

遊歩道終点の駐車場にたどりつくと、いつの間にか子犬は消えていった。

ワゴン型のパトカーが止まっているのに気づいた。何かあったのだろうか、と思っていると、しばらくして私服のお巡りさんが担架を担ぎながら山を下りてくるのが見えた。

「おーい、手伝って」と言われて担架を一緒に運んだ。顔色の悪い男性。「トランク開けて」と言われて、開けると、お巡りさんたちは、担架をそこに置き、白い布でさっと担架の男性を覆った。そこで初めて気づく。そういえばこれは救急車でなく、パトカー。運ぶのに夢中で気がつかなった。

「自殺だよ」。戸惑っている私をみて、お巡りさんはぽつりとつぶやき、パトカーで去って行った。

1人駐車場に残される。

とにかくショックを受けた。

どうしてよいのかも分からず、ただベンチで座り込んでいた。

どのくらい時間が経ったか、よろよろと立ちあがり、雪の中を歩き始めた。バスに乗る気がおきず、ただただ歩いた。

峠道にさしかかる。

突然、それまで降っていた雪が止み、青空が見えた。ほんとうに突然だった。暖かい風が吹き、あたりに柔らかい日差しがこぼれた。海が輝きだした。山に積もった粉雪がきらきら光った。

歩きながら、熱いものがこみ上げてきた。

「何があったか知らないが」

 踏み出す足に力が入る。

「生きていれば、こうしていつかは晴れるのに」

その時感じた海の青さ、空の美しさは忘れられない。