モスクワ空港ドタバタ・ハラハラ

土曜日の夕方、国内出張のためにタクシーを呼び、シェレメチボ第一空港に向かった。車に揺られているうちにほどなく眠くなり・・・ふっと気がつくと車が止まっている。

もう空港に着いたのか、と思って目をこすると大渋滞・・・土曜日の夕方、しかも郊外方面だというのに、今頃からダーチャ(ロシア人の庶民が郊外に持っている農園付の別宅)に行く人がこんなに多いのか。

空港に着いたのが飛行機の出発40分前。日本なら平気だがロシアでは国内線とは言え、チェックインが終わっていてもおかしくない。

トランクを押して空港の出発ロビーに駆け込むと、「Delay」の表示だけが出ていて、チェックインカウンターの番号や受付中であることを示す緑色のランプが点滅していない。出発遅延のため、チェックインが始まっていないのだろう。

やれやれ、今日は、ついていないようでついている、と思いながら、ごった返す人ゴミの中、立ち飲みのコーヒーカウンターに行って、エスプレッソを注文(プラスチック製のペラペラのカップのくせにこれが250ルーブル=約850円もした)して、緑ランプをつくのを待っていたがこれが全くのマチガイだった。

突然表示が変わり、「チェックイン・オーバー」になってびっくり仰天。あわててインフォメーションカウンターに行くと、美人の案内嬢は私を睨みつけて、すぐに中のカウンターに行け、という。

この空港は、チェックインカウンターの中に入る前にパスポートチェックとセキュリティーチェックを通過しなければ入れないシステムで、どの入口も長蛇の列。靴を脱いだり、ベルトを外したり、何回くぐっても金属反応が鳴るおじさんが動物園の熊のようにゲートを行ったり来たり、埒があかない。

ロシア人はこんな時は割りこんで行くのだろうがそれもできず、辛抱強く順番を待つ。チェックの警備員のおばちゃんは、「あんた、間に合うの?」と言いながらも通してくれた。

私の乗る便を表示しているカウンターはもうない。破れかぶれでウラジオストック行の飛行機のチェックインの列に割り込み、必死の形相で交渉すると、あーら不思議。何とか発券してくれた。ただ、トランクは自分で持っていけ、と言われる。

ほっとしながら順番を抜かしてしまった乗客たちに謝り、出発ゲートに向かおうとすると、なんだかお腹のあたりがスースーする。気がつくとベルトがない。

そうだ、さっきのセキュリティーチェックの際に外したままだ。あわててセキュリティーカウンターに戻ると私のベルトが、くたびれた蛇のようにカウンターの上に残されていた。あぶないあぶない。ベルトを外したまま出張に行くところだった。

飛行機に乗る直前、搭乗券を見て驚いた。「2番C」だって?
もしかして・・・・

思ったとおり、ビジネスシート。ちらっとエコノミーシートを見るとほぼ満席だった。私の予約していたエコノミー席は、キャンセル待ちか何かで誰かに売り払われたらしい、どさくさにまぎれて、何となくアップグレードしてしまったようだ。

いつもながら、融通が利かないことも多いが、融通が効くときはすごく効いてしまうのがロシア。

ラッキー、と思っていると、エコノミー席に顔見知りの顔が。S教授夫妻だ。これから出張する土地で、我が社が開催するセミナーに招待した高名なフランス人ドクターだ。招待した者がビジネスシートで、招待された者がエコノミーというのは何とも具合が悪い。しかし先方は夫妻。引き離すわけにもいかない・・・・せいぜいS教授に見つからないことを祈るばかりだ。

運がいいのか悪いのか、ジェットコースターに乗ったような一日だった。この先の出張が思いやられる・・・

6時間半の夜間飛行。さまざまな思いが交錯して眠れない。

午前5時、私が降り立った東シベリアのイルクーツク空港は、うっすらと雪化粧していた。