キエフ行き001列車

先週金曜日のモスクワはこの冬初めての本格的な雪だった。町には除雪車が繰り出し、スパイクタイヤの音がこだまする。

仕事を終えて帰宅。夜10時過ぎ、タクシーでキエフ駅に。雪は少し小やみになっていた。

23時23分発。ウクライナキエフ行き001列車は既に3番線のホームに入線していた。(モスクワ・キエフ駅発、ウクライナキエフ駅行き、ということでちょっとややこしい)

ロシアの冬のプラットホームの風景は何とも言えない旅情を感じるので、ロシアでは大好きな風景の一つだ。

果てしなく続いているかのような長い列車。

各車両の出入り口には、濃紺の制服と帽子に身を包んだ女性車掌が背筋を伸ばして立っている。

降る粉雪。

ホームのライトに照らされて伸びる彼女たちの長いシルエット。

思わず見とれてしまう。

7号車。幸い食堂車のすぐ近くだ。

夜行列車が大好きな息子は大はしゃぎだ。寝台車で起きていられるように、わざわざ学校から帰ってきてひと寝入りしたらしい。

荷物を収納していると静かに列車は動き出した。

これからキエフまで9時間半余り。

夜12時を過ぎているが、息子がお腹がすいたというので食堂車に。

真夜中なのにまだ発車して1時間余りのせいか、とても混み合っていたが、一つだけ開いたテーブルを見つけて着席し、サラダとボルシチ、ビールとジュースを注文する。

日本ではほとんど消滅してしまった食堂車だが、やっぱり窓から景色が見える昼間がいいな。

ニコニコ愛想の良いウエートレスがテキパキサーブしてくれて30分ほどで部屋に戻る。

そしていつしか眠ってしまう。


明け方、コツコツドアをたたく音がして目が覚めた。列車は止まったまま。

国境だ。これまで40ヵ国を旅したが列車による国境越えは初めてで緊張する。

ロシア人の女性国境警備隊員によるパスポートチェック。あっという間に審査が終わる。ベットでうつぶせに寝ている息子の顔など見ないで行ってしまった。空港よりよほど楽だ。

列車が走りだす。15分ほどしてまた止まる。今度はウクライナの入国審査だ。男性の審査官がドアを叩いた。これも書類を出すとあっという間に終了。

気がつくと朝7時半。キエフまで30分だ。慌てて飛び起き、家族全員を起こす。

定刻の8時。

列車は1分の狂いもなく、曇り空のキエフ駅のホームに到着した。