ぺチョーラ修道院

キエフ駅2階のとてつもなくでかいレストランで朝食を取る。インフルエンザが大流行しているせいで、店の人は皆マスクをしている。

食後、駅前でタクシーを物色しようと歩いて行くと、駅を出る前に「タクシー」と声がかかった。

交渉成立。まずホテル、そしてウラジーミル寺院、最後はぺチョーラ修道院へ。

運転手はサーシャと名乗った。いろいろな建物を指さしながら、観光案内してくれる。

モスクワのロシア人同僚には、「ウクライナに行ったらロシア語は話さない方がいいですよ。モスクワから来たことも言わない方がいいですよ」とアドバイスされたが、私にとってはロシア語もウクライナ語もその差がほとんどわからない。

ウラジーミル寺院は土曜日の朝なのにミサの真っ最中。楽しみにしていたバシネツォフの壁画がよく見えないので、後で出直すことにして、ぺチョーラ修道院へ。

ここは巨大な修道院で、いろいろな寺院を巡ったが、ハイライトは地下洞窟である。修道院の名前になった「ぺチョーラ」も「洞窟」という意味で、今から1000年ほど昔、もともと洞窟から出発した修道院である。

「遠い洞窟」は、アンナ受胎教会の中にあった。「信者のみ」という札が掲げられているので戸惑っていると、入口のおばさんから、マスクを外すように指示があり、妻はスカーフをつけてもらった。ろうそくを購入し、ろうが下に垂れないように人差し指と中指で挟んで持て、などの指示を受けて、中に入ることを許される。ろうそくを手でかばいながら、火が消えないように恐る恐る地下に降りていく。

入り組んだ洞窟の中は、通路のそこかしこに過去の僧たちの棺が置かれ、棺の蓋のガラス越しに遺体を拝む。ほとんどがミイラになっているが、棺はどれも子どもの背丈ほどしかない。棺の上には、名前と生前の肖像が掲げられている。信者さんたちはみな、ひとつひとつ棺に口づけし、十字を切り、祈りをささげる。

自分のろうそくの頼りない光に導かれて、信者さんたちと洞窟の中を歩いていると、だんだん息苦しくなってきた。やっぱり自分たちはこんなところにいてはいけないのではないか。彼らの静かな信仰の妨げになっていることは間違いない。ずっと奥深くまで続いているが、それ以上行ってはいけない、という気持ちに押されるように途中の出口に向かった。

数百年ににもわたる、信者の営み。祈り。

この光景はずっと変わらなかったし、これからも変わらないのだろう。我々のような闖入者が多少増えることがあるかもしれないが・・・・


地上に上がると、真っ青な空と、眼下にゆったりと流れるドニエプル川が私たちを迎えてくれた。


写真上 修道院から見たドニエプルの流れ
  中 アンナ受胎教会に続く修道院の坂道
  下 大聖堂