野外博物館

さて、まだ朝9時過ぎ。博物館やその他の教会が開くまでかなり時間があるので、その間に郊外の野外博物館と教会を訪ねることとした。

クレムリン前のバス停から郊外へ。

5分ほど走れば、もう地平線が見えるような郊外にまで来てしまった。

それにしても、朝の郊外行きのバスにしては大勢乗っている。逆なら分かるのだが何故だろう、何故か女性ばかり。しかも途中からどんどん乗ってくる・・・

その理由が分かった。バスが野外博物館前のバス停に着いた時だ。

バスのお客の大半が降りて、ぞろぞろ博物館に向かって歩いて行く。そうか、みんな博物館に通勤する人たちなんだ。

それにしてもすごい人だ。

開館の10時まで30分ほど、門の前で待った。

モスクワにはほとんど雪が残っていないが、ここは一面の雪原。

ようやく開館し、中に入る。

中央の石造りの建物から、博物館職員の制服なのだろう、まるでマトリョーシカのように華やかな民族衣装に身を包んだおばさん達が、それぞれの持ち場の住宅に散っていく。さっきバスに乗っていた人たちだろう。

ほとんどが木造の古い教会と農家だ。200年前くらいの建物が多い。
ただ、閉館している建物も多く、広大な敷地を開館している建物を探してさまよい歩く。雪解けの水で気をつけないと足を取られる。

あっちの建物の窓に、民族衣装の婦人の姿が見える。また蝋人形かな。いやいや、動いているぞ、ということは開いているんだな、という具合。

だんだん疲れてきたが、他の観光客の姿は全く見えない。この広大な博物館と30人以上のおばさん達は私だけのために働いてくれているかのようで、がんばって巡り歩く。

農家は動物を飼っていたスペースが広く、人の居住空間は本当に狭い。
子ども達の居室は30センチほどの屋根裏部屋の空間だけ、という家もあった。天井がひどく低い。パンを焼く窯の上までベットになっている。まあ、暖かいだろうが、老人向けのペットだそうだ。

部屋の一角には必ず神棚のようなコーナーがあり、素朴なイコンが飾られている。

担当のマトリョーシカおばさんの説明をききながら、この家で繰り返されてきたであろう、家族の団らんの声が聞こえてこないか、耳を澄ましてみた。

聞こえてきたのは、キツツキがとんとんとんとん、ひっきりなしに叩く音のみ。

「春の音だねえ」

マトリョーシカが嬉しそうに言った。

上 中 野外博物館

下 野外博物館近くの修道院