三人展「つながる心」

入社したばかりの頃、S先輩には随分しごかれ、随分お世話になった。いろいろ分からない事を教えてもらった。よく飲んだ。納得行かない事があると食ってかかる私をおおらかに受け止めてくれた。

それから10年以上たった3年前のある日。

長くSさんは悪性の病気になり療養中だったが、小康状態を得て何とか勤務に復帰することになり、別人のように痩せて、顔色が悪くなってしまったSさんに再会した。

「妻も病気で私以上に悪いので、私が看病しています。来年の今頃は、2人ともいないかもしれません」

職場で2人だけになったとき、そんなことを言っておられた。

私ときたらSさんを前にしていると、どうしてもたじろいでしまっていた。

当たり前のように「明日が来る」ことを前提にして生きていることがいかに儚いか、Sさんを見るたびに考えずはいられなかった。


そしてSさんは、

その後奥さまを看取られ、私がモスクワにいた今年の春に職場を退職された。


ところで、

モスクワ在勤中の昨年10月、奥様の遺作展がSさんの手で開かれることを知った。

奥様が絵を描いておられることは全く知らなかった。

奥様のブログに遺作が公開されていて、Sさんがそれを管理されているらしいのだが、開いてみると、職場での職業人としてのS先輩とは全く違う、妻を看取った優しい夫としてのS先輩の姿があった。

奥様は個展を開くのが夢だったという。

亡き妻の夢を実現するべくSさんがブログを通じて奥様のお友達に呼びかけ、彼ら、彼女らとともに力を合わせてそれを実現したのだ。

モスクワなので残念ながら個展には行けなかったが、ブログの絵を見ながら、何と素晴らしい絵なのか、と思った。

描かれている動物たちの、一点の曇りもない、生き生きとしたその愛らしさ。

死の不安を抱えながらも、こんな豊かな絵が描けるのか。

ひるがえって自分は一体何を遺せるのか、そう自問せずにはいられなかった。


あれから一年、

同じギャラリーで再度、奥さまの絵が他の作家とともに三人展「つながる心」と題して開かれることになった。

準備の中心となってきたのはもちろん、亡作家の夫、Sさん。

ブログには亡き妻の個展開催にかける、Sさんの熱い思いが溢れている。
http://blogs.yahoo.co.jp/soel917

そんなSさんだったが、

10日前、自身の病気が急に悪化して亡くなってしまわれた。

今日になって訃報に接した私。

どんなにか、個展の開催が待ち遠しかったことだろう。

個展は友人たちの手で予定通り開催されるとのことだ。

日時:10月8日(金)〜13日(水)11:00〜19:00(最終日は15:00)
場所: ギャラリー日比谷(東京都千代田区有楽町1-6-5) 
     http://www.g-hibiya.com/


今度こそは個展に行ってSさんの想いを感じてこよう。