心に沁みいる映画

今週も2回、職場で朝を迎えた。

記者発表時間前になると、発表をまとめている部隊が殺気立つ。入念な数字チェック。にもかかわらず、新聞各社に配布するコピーが始まってから「差し替え!」との声に印刷室から怒号が飛ぶ。

私の隣のグループは、広報班。新聞社、一般の方からの電話対応に追われる。かかってくる電話の半分に怒気がこもっている。罵声も浴びせかけられる。つらい仕事の一つだ。

こんな環境の中で仕事をしていると無性に心が乾いてくる。

そんななか、私の仕事に一区切りついて、今夜2時間半ほどの空白ができた。

震災以前から行きたかった映画、「私を離さないで」。調べたら日比谷の映画館でまだ上映していた。ただ、今日の最終上映は10分後。

思い切って職場を抜け出し、タクシーに飛び乗った。

10分前とは異次元のような暗い映画館の席に身を沈めると、はじめて、人間らしい感覚が戻ってきた。

日本生まれの英国人作家、イシグロ カズオの原作。私の大好きな本の一つだ。

映画サイトの評では「原作の方が良い」との声が多かったのだが、結論から言うと、素晴らしい映画だった。むしろ、原作を知っているので余計、深められたと思う。

特に後半は素晴らしい。次々と恋人や友人たちを喪う。そして、主人公にも彼らと同様、過酷な運命が待ちうける。それを淡々と引き受ける彼女。

恋人を失うシーンでは、映画館という場所を忘れて声をあげそうになった。

今思い返すだけでも涙腺が決壊しそうになる。

そして、ラストシーン。草原、鉄条網に引っかかったビニールが風にひらめく。これからの人生を思い、それを受け入れようとする主人公。

忘れ難いシーンだ。

人は何のために生きるのか。それは未来のためであるとずっと思ってきた。しかし、この映画を見て思うのは、それと同じ位、あるいはそれ以上に「過去」が支えになること、そして、「今」を大切にすることの重要さ、だ。

忘れられない映画になりそうだ。

明日は3週間ぶりの休日。原作をもう一度、読み返してみよう。

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