「クラウディアの祈り」村尾靖子著

仕事柄、シベリア抑留経験者の方と仕事する機会も多かったので、抑留者問題には個人的に長く関心を持ってきた。シベリア出張の際には、可能な限りその土地の日本人抑留者墓地を探し、祈りを捧げてきた。が、スパイという無実の罪を着せられ、帰国が許されず50年の間ロシアで過ごした日本人、蜂谷氏の存在はこの本で初めて知った。

彼を裁判で「スパイである」と名指しした「安岡」なる人物は、その後銃殺され、蜂谷氏はそのままスパイの罪を着せられて極寒のシベリアで、長期の強制労働を強いられ、日本に帰国する機会も逸した。そしてそのまま50年が過ぎる。

彼は運命に翻弄それる。その中で、「安岡」に代表される、人間の冷たさもあり、また、暖かい心を持って彼の命をを救った将校も存在した。

そして、平壌で彼と別れたまま、50年、日本で彼を待っていた妻久子。

スターリン圧政下を孤児同然に生き抜くなど蜂谷氏と同じ境遇だった者として、彼を信じ、支え続けたロシアでの妻クラウディア(ここでも、疲労困憊して馬小屋で眠っていた孤児クラウディアを救ってくれたクラウディアの養父母の存在がは、私たちを勇気づけてくれる)。

として、3者の生き方が描かれている。

そして、最後にクラウディアは、孤独に戻ることを承知で、久子を探しだし、ためらう蜂谷氏を日本に送り返す。それが自分の義務であるとして。

過酷な生の中での人間の尊厳とは。

そして、陳腐な言い方であるが、真の人間のつながりとは。

さまざまな深い問いを投げられた本であった。