強風の飛行機の中で

ロシア出張に行くために札幌から成田に向かった13日は、関東地方で強風が吹き荒れ、我々の乗った飛行機も成田に着陸できない場合は、羽田か中部国際空港に向かう、という条件付だった。

ちらと窓の外を見ると、白い雲が魔法の絨毯のように輝いている。月に何回も飛行機に乗るが、こんなに美しい雲は珍しい。中世に飛行機があったら、まさにこれが天国のイメージだろうな。ダンテがこのような景色を見ることができたなら、「神曲」の天国篇の記述も大いに変わったのではないか、という気がする。

暢気なことを考えていたのだが、成田が近づいてきて、窓の外の景色の変化に息を呑んだ。上層は明るい光なのだが、下層は全く真っ茶色に濁っている。まるでコップの中で分かれた水と油を見ているよう。濁った下層に人が住んでいるのか、と思うとぞっとするような風景だった。

これは強風による「煙霧」とあとで解説されたが、我々の飛行機は高度100メートルくらいまで降下したが、ものすごい風。こんなに地上が間近に見えると、乱気流だと鷹揚に構えていられない。結局、そのままの着陸をあきらめて機は急上昇、改めて着陸をやり直した。着陸するまでの間もやしろべえの中のいるかのごとく、揺れる揺れる。神に祈る気分。着陸に成功したとわかった瞬間、機内からは大きな拍手が沸いた。日本の飛行機でこんな体験は初めてだ。成田空港の滑走路は黄色くかすんでいた。

ウラジオに向かうロシアの飛行機も、滑走路一本が閉鎖される中で、離陸、着陸を交互に行うようになったのだろう、シートベルト着用、トイレに行くのも禁じられたまま、2時間、何の機内アナウンスもないまま待たされ、ようやく次の着陸が終われば次に自分たちの飛行機が離陸する番、というところで、私は目の前の滑走路をぼんやり眺めていた。

そこに日航機が着陸してきた、が着陸寸前、風にあおられて少し右に傾き、車輪が右側だけ、片足だけ着地する格好になった。危ない!、と思った瞬間、あっという間にそのまま再び離陸していった。乗っている乗客は肝を潰しただろうな。でも次は自分たちの飛行機の番、というのも気分が良くない。

昨年だったか、成田では貨物機が着陸時に強風に煽られて着陸に失敗し、3人の乗務員が亡くなっている。
大げさに言うと、命と引き換えに海外出張に出かけようとしているわけだが、これがごく普通の仕事のやり方であり、生活なのだな、と改めて感じた。

こういう体験をすると、日常、このような危険と背中あわせで仕事をしておられる飛行機の乗務員の方々には深く敬意を表したくなった。まさに命を張っているのだ。

先日読んだ若い航空自衛隊の戦闘機乗員のインタビュー記事に、お酒を飲むのは翌日に訓練がない金曜と土曜だけ、そして呑むときには、「明日死ぬことはないんだ」と思いながら呑む、とあった。

私も一時期、そのような緊張する職務を与えられたこともあった。ただ、一時期で済んだ。それ以外に、そのような緊張感を持って仕事をしたことがどれだけあったのだろうか、と機内で考え続けた。