メシニコフ宮殿

ネバ川沿いの道を歩きながら次の目的地、メンシコフ宮殿に向かう。

地球の歩き方」には、ピロシキ売りから身を起こし、ピョートル大帝の側近として権勢を奮い、ピョートルの死後はシベリア流刑になり波乱の生涯を遂げた男、とある。

この宮殿は、メンシコフの住処として、ピョートル大帝もしょっちゅう遊びに来た場所らしい。

夜毎の大宴会を彷彿とさせる大広間や、中国風の内装で彩られた客間など、魅かれるものが多かったが、私が最も印象的だったのが、恐らく親しい人たちだけを招じ入れた場所だった思われる、そんなに広くない客間の中央で、コチコチ時を刻んでいた大時計だ。

誰もいない部屋で、ベンチに腰をおろし、目を閉じて時計の音に耳を傾ける。

この時計は、この建物の主が活躍していた200年前からこうしてずっと時を刻んでいるのだろうか。

そう考えると早速、得意の空想時間旅行に突入してしまう。

なぜこんなに時計の音に心魅かれるのだろう、と考えて、思い当った。

私の生まれ育った実家には、柱時計があり、それが家じゅうに響くような音でいつもコチコチ時を刻んでいた。

熱をだして寝込んでいる時、

夏の日、学校から帰って畳の上に大の字になって団扇で仰いでいる時、

夜中に目を覚まし、そのまま寝付けなくなった時

常に私は時計の音とともにあった。自分の幸せな少年時代を思い出すとき、そこには時計の音があった。

小さい時はその音を怖いと感じた時もあった。人間は全て死ぬのだ、と知った時、情け容赦なく未来に向かって進行し、人生を「食って」いく時間というものを恐ろしく感じた。

今は違う。

時間は自分とともにある。あるいは、次の扉からやってくるものだ。

そんな気がする。

「ハロー」

部屋に入ってきた、学生のような女性に声を掛けられてハッと我に返った。手にノートを持って熱心にメモしている。

私も何か書きとめておこうとポケットのメモ帳を開いた。