貸切の定観バス〜根室

夕方の特急「スーパーおおぞら」の指定席はほどほどの混み具合。隣のおじさんに少し遠慮がちに札幌で買った駅弁を開き、ぱくついているとほどなく日が暮れた。持ってきた文庫本を読んでいるとほどなく眠りに落ち、気がつくともう池田を過ぎていた。

白糠付近の、真っ暗な海岸線を走り抜け、釧路へ。駅前はガランとして、もの寂しい。駅前ホテルに投宿。ダイエット中だしどうしようか、と迷ったが、釧路の味をゆっくり味わえるのは今夜だけ、ええい、とばかりフロントのお姉さんに駆け寄って、近くのラーメン屋を教えてもらった。繁華街まで徒歩10分。結構賑わっている。釧路ラーメンはあっさりした魚介味。なかなか美味い。

翌朝、5時半に目覚ましが鳴る。眠い目をこすりながら釧路駅に向かい、5時55分初の快速はなさき号を待つ。一両編成のディーゼルカー(これからこのタイプに何度となく乗ることになったのだが)に乗りこむ。ここから厚床までは、30年前、私が高校生の時に乗った鉄道だがその時は3月。一面の銀世界だった。

厚岸を過ぎると列車は薄暗い海岸線を走る。すごい霧だ。ほどなくして湿原の中を走り抜ける。あっ、エゾシカの親子だ。逃げるでもなく、線路脇に立って、じっと列車を見つめている。

根室駅到着は八時すぎ。駅前のバスターミナルで、定期観光バス納沙布号の切符を買う。「コースはどうしますか」と聞かれ、迷った。納沙布岬を回るAコースは2時間1800円、そのあとすぐに催行されるBコースは風蓮湖まで足を伸ばして所要3時間、AB通しで買うと2200円だ。とりあえずAコースだけ、と言ってバスに乗り込んだ。乗客は私も含めて5人。

バスは走りだしたがすごい霧だ。これでは納沙布岬では北方領土は望めまい、とがっかりしていたが、やはり無理だった。北方領土資料館を見たあと、霧に曇った岬の売店をのぞく。考えてみればまだ朝飯を食べていなかったのだ。奥のテーブルをのぞくと、観光客らしいおじさんが自分の顔ほどもあるでかいカニをまるごと皿に盛り、一心不乱に食べている。私も惹かれたが、こったは観光バス。時間がない。ソフトクリームだけ買った。

しかし、納沙布岬周辺の学校ではいくつもの学校が、「ありがとう、さようなら」との垂れ幕がかかっている。来春に大きな統廃合があるらしい。多くの廃屋がある。せっかく地のにじむような努力をして切り開いた土地が、また元の自然に戻っていくのを見るのは寂しい。

さて、このままで帰るのは惜しいのでBコースにも参加したいとガイドさんに申し出て、根室駅に着くと、私以外の客は全部降りてしまった。

つまり私さえいなくなればBコースは運休となり、運転士さんもガイドさんも仕事しなくて済むはずだし、バスに余計な燃料を使わせないで済む。私だけのために3時間、バスを動かしても、400円増収になるだけなのだ。申し訳ないので降りようとすると、ガイドさんが私の腕を強く引き止めて「いいんですよ」と言う。大きなバスが貸切、というのは初めてだがなんとも居心地が悪い。ガイドさんもマイクを握って立ち、駐車場に入るとバスを降りて背後に回り込み、ピーピー笛を吹いて誘導している。なんとも大げさである。

しかしながら、花咲車石を歩き、風蓮湖のネイチャーセンターではこれまた学芸員の方につきっきりで説明していただいたり、北方領土交流センターでは職員が私一人のためにビデオ上映してくれたりと至れりつくせりの3時間は悪くなかった。

写真(上から順に)快速「はなさき」
茶内駅のある霧多布町は、ルパン三世の作者、モンキーパンチ氏の出身地、
霧の納沙布岬
貸切だった根室交通バス「ノサップ号」