偶然の「くるみ割り人形」
春休みで妻子が日本に帰国して二度目の休日。
自宅で仕事をしようとしたがあまり天気が良いので落ち着かない。
仕事はやめにして、外出することにした。
地下鉄に乗って、大好きな画家、バシネツォフの家博物館を訪ねることにした。
ところが、博物館に入ろうとすると子供たちの団体が。嫌な予感を覚えながら子どもたちに続いて門をくぐろうとすると、「今日は団体貸し切りよ。」とバーンと戸を閉められた。
ここはロシア。こんなことでめげてはいけない。先日も、とある博物館で時間外に行ってしまったことに気づき、従業員入口から入って何とか頼んでみたら、あっさり入れてもらったこともある。
再び扉をぐいっと開けて、日本から来た、と叫ぶと、4時前に来い、と言われた。
博物館の前のカフェで、2時間弱、仕事の書類を読む。思わぬところで仕事がはかどった。
言われた時間に行き、画家の描いた絵(大好きな絵ばかり。一枚紹介しますが、いずれこの画家のことを日記に書きたいと思います)、100年前以上の木造の家のたたずまいを堪能する。面白みのない、旧ソ連式の高層アパートのなかに、ここだけ19世紀の時間が流れている。
博物館を辞し、路面電車に乗ってオフィスに向かう。休日出勤だ。2時間ばかり仕事をする。
そろそろ帰ろうか、と思って気がつくと、そういえば、今日は職場近くの劇場「ノーバヤ・オペラ」で「くるみ割り人形」がある日。先日、チケットを買おうとしたら、売り切れだった。今日は当日、もしかすると、チケットをゲットできるかも、と思い、慌てて書類を片付けて劇場に向かう。
劇場の前できょろきょろしてみるが、ボリショイ劇場など有名な劇場の前に必ずいるダフ屋の姿が見えない。
楽しげに颯爽と劇場に消えていく人たちを見ていると、自分もダフ屋になったような気分になってきた。
もう帰ろうか、と思いかけたころ、恰幅の良いおばさんが、「チケットない?」と大声を張り上げた。しめた、私もお相伴に与れるかも、と思って金魚のフンのようにおばさんの後についていくと、上品なおばさんから「あるわよ」との返事、思わず、「私も欲しい」と声を張り上げた。
天井桟敷の席で150ルーブル(500円)、あれれ定価じゃないか。多分、このおばさん、友人の分までまとめてチケットを買ったが、何人か来られなかったのだろう。本当にラッキー。
晴れがましい気分で劇場に入り、久しぶりの生オーケストラでの「くるみ割り人形」を楽しむ。
実は、前回の勤務の時に、私は「くるみ割り」を10回以上見た、いわば「くるみ割り人形評論家」。いまや劇そのものと言うより、演出の違いを楽しむ域になった。
ノーバヤオペラのくるみ割りの特徴は、「子役」。
とにかく幼稚園から小学生低学年の子供たちがたくさん舞台にでていて、かわいい。
ネズミの軍団とくるみ割り人形率いるなまりの兵隊たちのほとんどがかわいい子ども。
第二幕の「ロシアの踊り」も子どもたち。
もちろん、クララ役のプリマはもちろん、プロのバレリーナたちもすごい。テンポの良い、「中国の踊り」、プリマがソロで踊る「こんぺいとうの踊り」、全員で盛り上げる「花のワルツ」など・・・拍手喝采する。
帰り際、5月の演目にずっと前から見たかったオペラ「イーゴリ公」を発見。家族三人分のチケットをゲットした。一枚800ルーブル(2200円)
これがロシア生活の醍醐味かな、と楽しい気分で家路についた。