冷戦とは滑稽なり・・・モスクワ地下要塞見学


氷点下20℃近くの凍えそうな先日の日曜日。息子とモスクワの「冷戦博物館」を見学した。

日本人対象のオプショナルツアー。定刻なのに何人かが遅れてきて入れない。みんな凍えそうになりながらゲートの前で待つ。

地下鉄環状線タガンスカヤ駅から徒歩10分、何の変哲もない住宅地の一角に、その施設はあった。

ソ連時代に建設された核シェルター。モスクワが核攻撃を受けた際、共産党幹部がこもって指揮をとるために造られたという。

やっと人数が揃いゲートをくぐる。いかにもソ連チックな寒々しい廊下を歩いて建物の中に。入場券です、といって渡されたのが「スプラフカ(入場許可書)」。写真欄にはガスマスクをすっぽりかぶった男の写真が。

建物に似合わず、一応、ユーモアを解する施設らしい。といっても完全にブラックユーモアの世界だが。

一気に地下60メートルまで降りる。窒息しそうなくらい小さなエレベーター一つだけなので、大多数の観光客は狭い階段をぐるぐる、ぐるぐると降りていく。地下18階、目が回りそうになったころ、やっと目的地に着いたが、見学の後は今度はこの階段を昇るのか、と考えただけで暗くなった。

地下の司令部。ビールのロング缶を横に四つ並べたような構造。ここに勤務した職員は、隣のユニットに行くことは禁じられていたそうだ。全体の構造を知られないようにするためという。

頭上から地下鉄が走る音が聞こえる。モスクワの地下鉄はそれ自体核シェルターで、ものすごく深いところを走っているが、さらにその下にいるのだ。

共産党フルシチョフ書記長もよく来たという指揮所。
ガスマスク、軍服、軍帽の試着もできる。弾は入ってないが本物の銃も。

構内で使われていた当時の電話や暗号の打電装置を試しに使うこともできる。壁にはソ連時代のスローガンが印刷されたポスターの数々。

ソ連オタク」(そんな人がいたら、だが)にとっては聖地のような場所かも。

射撃場もある。巨大な地下壕で、あちこちが通行止めになっている。あっちこっちで地下水が浸み出して水たまりを作っている。

長く暗い廊下を歩いていると、突然電気が消えて真っ暗に。スワ事故か、と思ったらロシア語のアナウンスが流れる。

「先程モスクワは核攻撃を受けて全滅した。放射性ガスが蔓延しているので直ちにガスマスクを装着せよ」

なーんだ。単なる演出か、なかなか粋なことやるじゃない、と思うとガイドは真面目な顔で、「実際にこんな風に訓練してたんですよ」と言った。

そして、「ここがあまり居心地が良くなかったので、フルシチョフは核のボタンを押さなかったのでしょうね」と言ってニヤリ。

見学後、予想通り、階段で18階相当を昇りきるのは相当苦しかった。
ぜいぜい言いながらゲートにたどり着いた。

しかし、なんというか今となってはオタク向け観光地だが、今から40年ほど前は、共産党や軍の幹部が大真面目にここで働いていたのだと思うと、複雑な思いがこみ上げる。

人間とは何と滑稽な存在なのか。


写真上 ガス防護マスク
中   施設の模型。管状の地下ユニット4つで構成
中   司令部幹部の席。フルシチョフ書記長も座ったとか
下   ソ連時代のポスター。「おしゃべりは敵を助ける」とある。