奇跡の帽子

ロンドンの旅日記も書いていないし、アルメニアサンクトペテルブルクと旅行ばかり重ねているが、そのうち書くことにして、今日の出来事を新鮮なうちに。

今朝はサンクトペテルブルクから寝台列車でモスクワに戻り、帰宅して着替えていたら時間がなくなりそうなのでタクシーを予約しておいた。

それでも職場に着いたら若干遅刻気味、お金を払うのももどかしく飛び降りたのがいけなかった。

2時間ほどしたらタクシーの運転手から電話が。

「タクシーの中に緑色の襟巻を忘れてませんか?」

驚いてロッカーを開けると、見当たらない。

そう言えば家を出るときに確かに被っていたはずの帽子もない。先月の誕生日に妻にプレゼントされたイタリア製の鳥打帽子。

「帽子も忘れていない?」と運転手に聞くと、帽子はないよ、襟巻だけだよ、今度予約してもらったときに届けるよ、と言って電話は切れた。

はて、帽子はどこに行ったのか。

妻は今日から息子と日時帰国する予定で、朝から目の下にクマを作ってトランクを詰めていたので、いま、家に帽子を忘れていないか、なとど聞こうものなら大変な事態になることは明らかだ。

もしかしたら、タクシーで膝の上に帽子を乗せていて、下車する際に落としたのかも。

一度、そんなことで帽子を落とし、気付かないで行こうとして拾ってもらったことがあった。

昼休みにご飯を食べに外出した際、タクシーを止めてもらったあたりを探してみるが、ない。

歩道を行き交う大勢の人、ひっきりなしに行きかう車、強い風、そして、雪かきされずに残り、溶けて泥のようになった雪。

もし落としていたとしても、こんな中に残っている訳がない。
車に轢かれてぼろぼろになった帽子を発見したら、それはそれで大変悲しいことだ。

仕事が中々捗らない。疲れと、後悔と。

帽子を無くしたことを何と言い訳しようか。

夜の9時。職場を出た。

守衛さんに「ダ・スビダニア(さよなら)」と言って扉を開けて、通りに出て歩きだした私は5メートルほど先に不思議なものを見つけた。

駐車禁止表示のために歩道に置いてあったポール。

その上にちょこんと掛けられた帽子。

慌てて駆け寄って触ってみる。まぎれもなく私のもの。

しかも、帽子の上にうっすらと積もった雪を振り払うと全く汚れていない。

タクシーを下車する際に落としたものに違いない、だとすると落としてから12時間経過している。

よくもまあ、車に轢かれたり、誰かに持っていかれたりせずにここに残ったいたものだ。誰か親切な人が拾って、ここに掛けてくれたのだろう。

ロシアでも奇跡があるんだね。

この帽子、大事に大事にしなければ。

もう気軽に被れないな。

神棚にお供えしておこうか。