ロカマドールの夜
コンクから岩壁の修道院、ロカマドールに向かう。谷あいの小さな村、ロカマドールは修道院のふもとのお土産ものの店が並ぶ通り一本だけの鄙びた小さな村だったが、訪れた日が悪かった。
日曜日。
おそらく欧州全土から、観光客たちが集まって大賑わい。中には日本の観光地と同様、爆音をたてて走りまわるバイク野郎なども大勢いて、げんなりした。
谷にべばりつくように出来た修道院は、遠くから眺めるとなかなか絶景だったのだが。
修道院では、ご本尊とも言える、真っ黒になった聖母子を拝した。長い間の蝋燭のすすでこうなってしまった聖母子像は多く見るのだが、ここの聖母子は、どこか日本の観音様に似ていて親しみがわく。
私は無宗教の人間だが、聖像を拝する人の気持ちはよくわかる。仏様にも、聖母子像にも、眺めていて安堵する気持ちは同じだ。
ようやく静かになった夜、ライトアップされた修道院を下から眺めながら床に就いた。
不思議な夢を見た。
どこか遠くの町に出張に来て、何故か、その街でダンスを習うことになった。(夢というのはいつも脈絡ないものだと思う)
インストラクターとして現れた女性に手を取られ、導かれながらダンスを習う。習っている間、ずっと感じていたのは、この女性の手のふっくらとした、温かな感触。
ダンスが終わり、女性の姿が消えたところで目が覚めた。
まだ真夜中。
月の光が部屋に差し込んでいる。
ぼんやりとした頭で、今の夢は何だったのだろう、あの女性は誰だったのだろう、と考えた。
そして思い出した。
彼女は、もうこの世にいない、昔の仲間だった。
夢というのはすごいな、と私は思った。
あの温かな手の感触が、まだ私の手に残っているようだったから。
写真左 ロカマドール村の入り口
中 全景
右 夜景