教壇に立つということ

講演や学会発表は何度かあるが、非常勤講師として大学の集中講義を受け持つのは初めての経験だった。

9月下旬、5コマ、計7時間半の講義の準備のために、9月のほとんどの休日を費やし、それでも足りずに講義前夜、ホテルで午前2時まで費やした。

50人くらいの学生、しかも必修科目なので、彼らの時間を無駄にさせないためにどうしたら良いのか、一生懸命考えたのだが・・・・。

初回の講義はこちらも余裕がなく、予定していた説明をあちこちすっとばしてしまい、1時間半の予定の講義が1時間で終わってしまった。2時間目に用意していたモノをくりあげて話したが、冷や汗もの。ただ、朝から続いた別の講師による連続講義の疲れのせいか、3割くらいの学生が居眠りしていた・・・・。

自分の学生時代を振り返っても、居眠りしなかった講義の方が少なかったが、しかし、寝ている姿って、教壇から見ているとこんなに目立つとは知らなかった。

休憩時間中に、学生をいかにして寝かせないか、について、その大学の教官に聞いてみたら、「ご自分の体験を是非語ってみて下さい」ということだった。

「学問」と「個人的な体験」は違うと考えていたし、体系だてられていない個人的な体験話などは気分転換や、講演ならまだしも、単位を与える学問としてそれで良いのか、と思っていたが、堅く考えすぎていたようだ。「是非、実際の体験を語ってください。社会人講師の授業では、学生は一番それを期待していますので」

肩の力を抜いて、率直に仕事を通じて自分が考えていることや体験談などを織り交ぜて話し始めると、確かに学生の反応がみるみる変わってきた。確かに寝ている奴はいるが、それでも良い。5コマの授業を通じて、一言でも私の言葉が彼らの脳裏に残ってくれればよい、と考えた。そう考えると、大学の授業と言うのは単なる知識を伝えるだけではないのだ、逆にこちらが「何を伝えたいのか」が問われているのだ、と初めて気づいた。

最後の講義では、こちらも全力だった。これだけは伝えたい、ということを必死で語った。そのためか、最後の講義では寝ている者は、1人もいなかった・・・・気がする。

「教壇に立つ」ということの面白さと怖さを初めて知った。

でもまた機会が与えられればチャレンジしたいものだ。