理想の上司

これまで、いろいろな上司に仕えてきたが、最も印象的だったのは15年前に私のいた課の課長だったAさんである。

当時、私の職場には、様々な保険会社の営業の女性がお昼休み時を中心に出入りしていた。
その中には、バリバリの保険外交員のおばちゃんたちに混じって、保険営業の何たるかもよく知らないまま、新卒後すぐに営業に配属された若い女性たちがいた。

彼女達はいつも苦労していて、昼休み席に残っている職員におそるおそる声を掛けても「今忙しいんだよ」とか「間に合っているよ」あげくの果ては「仕事の邪魔しないで」とか言われ、見ていていつも気の毒だった。(と言って、私も片っ端から保険に入るわけにもいかず・・・)

Aさんが課長の課に異動して驚いた。
お昼休みの終わりごろになると、そんな保険のお姉さんたちが大勢集まってくるのだ。

そのヒミツはAさんにあった。Aさんは彼女達に、「保険の話をしないなら、いつでもいらっしゃい!」と言っていたのだ。昼休み中、あっちこっちで邪険に扱われ、傷ついた彼女達が、この部屋に来ると、A課長が「よく来たね」とにっこり迎えてくれ、自らコーヒーを入れてくれるのだ。こんな居こごちの良い場所はほかにない。多くの保険のお姉さん達が傷ついた羽を休めにやってきた。保険会社の、彼女達の上司にとっては、出入り禁止にしたい課だったと思うが。

となると、若い男も集まってくる。保険の勧誘はなし、という規則もあり、お互いのびのび話ができる。盛り上がって、複数の保険会社のお姉さん達と私の職場の若い男性の合コンなども企画されるようになった。その頃、すでに結婚していた私には、彼女達の1人から、彼氏とうまくいかないのはどうして?みたいな相談がもちかけられたりした。

結果、この中から3組のカップルが結婚にゴールインした。

今から思うと、Aさんの、人を見る温かさに改めて脱帽する。今ではAさんは、我が社のいわゆる重役であるが、社内エレベーターに乗るたびに、中にいる人たちに「こんにちは」と大声で声をかけている。重役の顔を知らない若い社員達は知らん顔をしているが、それでもAさんは意に介していない。

私もこんな上司になりたいものだ・・・うーん。やっぱり難しいかな。